―「自己とは何か」を視線からひもとく新しい学問―
私たちは日常の中で、自己と他者といった区別を、特に意識することなく行っていますが、このような自己と他者を分けるはたらきは、人間の認知や社会的行動の基盤となる、とても重要な能力です。
しかし、「自己とは何か」、「自己認識と他者理解はどのように形成してきたのか」という問いは長い間、哲学や臨床の領域で語られることが多く、科学的に扱うことが難しいテーマとされてきました。
本研究領域「自己形成学」では、この難しい問題に対して、視線という身近で普遍的な行動に注目します。私たちは、何かを見るときに自然と目を動かしています。そしてその動きには、自分が予測して見ているのか、他者の行動に引きつけられて見ているのか、といった違いが反映されています。つまり、視線は単なる「見る行為」ではなく、内側の状態を外に映し出す窓でもあるのです。
脳の中では、自分の行動と結びついた情報を処理する仕組み、他者の表情や視線といった社会的な情報を理解する仕組みが存在し、それぞれ異なる領域が関わっています。本領域では、これらの仕組みがどのように関わり合いながら、自己と他者という区別を生み出しているのかを探ります。本研究領域は、人間の大人だけでなく、乳児、動物(サルやネコなど)といったさまざまな対象を含めて考えられます。こうした広い視点から、生まれてからどのように自己が形づくられるのか、種を超えて共通するしくみは何かを明らかにすることが目指されています。
「自己形成学」は、脳科学、発達心理学、行動科学といったこれまで別々に発展してきた分野を、視線を通じた自己の理解という共通テーマで結びつける、新しい学問領域です。このアプローチにより、これまで捉えにくかった自己という概念を、より具体的に理解する道が開かれつつあります。